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定例セミナー

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・ 開催済みセミナー
・ H15-H17のセミナー

次回定例セミナー開催予定

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 (社)日本経営工学会関西支部 平成23年度 第1回定例セミナーのご案内
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                    (社)日本経営工学会 関西支部
                          支部長 大坂 吉文
                         副支部長 本位田 光重
                     定例セミナー主査 竹安 数博
                           副査 板垣 宏明

標記セミナーを以下のとおり開催いたします.万障御繰り合わせの上,御出席下 さいますよう御願い申し上げます.

日時:平成23年10月8日(土) 14:00~17:00

場所:大阪工業大学 大阪センター
   〒530-0001 大阪市北区梅田3-4-5 毎日インテシオ3F
    Tel:06-6346-6367(代)

参加費:1,000円(事前申込みは不要でございます.)

(注)正会員(大学関係)の所属ゼミの学生さんは参加費無料です.
   ただし,人数確認のため正会員から必ず事前に参加者氏名を
   事務局までお知らせ下さい.

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<講演1>
「サービス科学と設計科学からみたIT経営の展開」

ご講演者:
 東京工科大学 教授
  角埜 恭央 氏

(概要)
ITユーザー企業に対するIT経営度調査(企業経営へのIT利活用力の評 価)およびITベンダー企業に対するSE度調査(ソフトウェア工学(Software Engineering)への取組みの卓越性の評価)というIT経営に関する産学官連携 の大規模な社会調査を5回にわたり実施した。調査の狙いは“未来志向のゴー ル(あるべき姿)”に向けたイノベーションの促進であり、方法としては競 争戦略論や統計的方法を用いた。 IT経営度調査の結果からは、経営トップの意識と行動が、企業のIT化の仕 組み(経営とITの連携、IT構築力、将来への備え)に影響し、IT投資・装 備と相まってIT経営効果を創造する因果構造が実証された。 SE度調査では、ソフトウェア工学の実践力の改善が経営パフォーマンスを向 上させるという構造は必ずしも実証されていない。この背景には、多重下請け、 カスタムソフト、中国・インドの新規参入など産業構造や競争環境の変化が複 雑に絡んでいる。 ITベンダー企業の品質・価格・納期(QCD)の関するアウトプット力は、 作り手と使い手の結節点となる。この結節点を介して両者の立場を止揚したI T経営の“未来志向のゴール”を設定することにより、ゴールに至る政策や戦 略のパスが創発し、目的志向のデータの好循環が生まれて、社会調査のサービ ス科学と設計科学への展開が期待される。
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<講演2>
「大阪府商工労働部における「顧客化」の取り組み」

ご講演者:
 大阪府商工労働部商工振興室 参事
  馬場 広由己 氏

(概要)
府県では、中小企業者をはじめ、域内で活動する事業者に対し、資金、経営、 技術、人材など様々な支援策を提供している。これら支援策をより多くの事 業者に利用していただくため、支援策の対象である中小企業者等を「顧客化」 していく取り組みを、平成21年度から商工労働部をあげて行っている。 この「顧客化」の実践について、都道府県では初となる「顧客データベース」 とそれを軸とした、事業者とのコミュニケーション拡大に向けた具体的な活動、 「支援策ポータルサイト『つなぐ』」をはじめとする事業者等への情報発信ツ ールや職員に対する研修など、最新の支援策の案内も交えつつ発表する。

「大阪府立産業技術総合研究所(産技研)の効率的な利用方法と相談・開発の成功事例の紹介」

ご講演者:
 大阪府立産業技術総合研究所 業務推進部技術普及課
  主任研究員 竹田 裕紀 氏

(概要)
産技研は、大阪府が設置した中小企業を技術的にサポートする公設試験研究 機関です。研究所と言う名称ではありますが、研究が主たる目的の施設では なく、中小企業の新製品の開発や、製品に関するクレームへの対応などを技 術的な側面から支援する施設です。とは言っても、公共的な資産として産技 研を見た場合、まだまだ知名度が低く、また利用している企業も十分に活用 していないのが現状です。そこで今回、研究所の概要と効率的な利用方法を 説明し、これらの制度を上手く活用した成功開発事例を、”ものづくりテク ノパートナー”としての側面から紹介します。
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開催済みセミナー

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平成22年度 第2回定例セミナー
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日時:平成23年2月19日(土) 14:00~17:00
場所:北浜フォーラム E・F室
参加者:14名
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<講演Ⅰ> 「ブランド選択と行列構造-自動車業界での応用-」
 講演者:
 大阪府立大学 経済学部
 准教授 樋口 友紀 氏

(概要)
ブランド品を購入する際、初めは手頃な価格の商品を購入するものの、情報を得
たりするうちに、その次に購入するものはより良い、名前の通った高価なもので
あるということが予想される。そこで、上位ブランドをベクトルの上位から並べ、
前回購入を入力、今回購入を出力としたとき、ブランド遷移行列は上三角行列と
なることが想定される。また、同じブランドグループに属する製品をブロックマ
トリックスを用いてグループ化することで、膨大なデータもより簡単に分析する
ことが可能となる。
上記仮説をもとに、本研究では数値例にてこれらの関係が鮮明に出ると考えられ
る自動車業界等の事例についてアンケート調査・分析によるデータを用いてブラ
ンド選択が上方シフトする場合の行列構造のあり方を検証しており、ほぼ仮説通
りの結果を得ることに成功している。
上記行列構造の解析と法則化により、新ブランド品の市場投入のタイミングや、
ブランド品のポジショニングを明確にすることが可能となる。また、それを予測
等に用いることもできる。本手法はマーケティングや販売戦略において有効な手
段となり得るであろう。
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<講演2> 「空調機生産におけるリアルタイム部品見える化と生販需給調整」
 講演者:
 ダイキン情報システム(株)
 常務取締役 平野 徹 氏

(概要)
家庭用空調機は市場需要の季節変動が大きく、そのために生産・出荷量が大き
く変動し品切れや過剰在庫を生じやすい。そこで当社ではその急激な需要変動
に対応しながら国内生産を継続するために、計画立案から部品調達および生産
指示に至るまでの生産管理プロセスのサイクル短縮を進め、「ハイサイクル工
場経営」を実現した。しかし、国際調達部品が拡大することで部品調達リード
タイムが大幅に長くなり、生産変動に対するフレキシビリティ低下を招いてい
る。そこで、国調部品のリアルタイム在庫管理を実現し、部品の過不足や生産
・出荷・在庫の一元見える化を生販需給調整に生かすことで、部品在庫基準を
下げながら猛暑・冷夏などの極端な需要変動に対応を可能とする「リアルタイ
ム管理システム」を実現した。
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   「学生会員による講演内容のまとめ」および「参加者の感想」
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<講演Ⅰ>

[講演内容のまとめ]-----------------------------------------------------
 ブランド品を購入する際、初めは手ごろな価格の商品を購入するものの、情報
を得るうちにその次に購入するものはより良い、名前の通った高価なものである
と考えられる。 
 ブランド購入時の消費者行動を行列構造として明らかにすることができれば、
①マーケット予測ができる、②新たなブランド品の市場投入のタイミングを考え
ることが可能、③消費者が評価し位置づけたポジションを明確に浮かび上がらせ
ることが可能となる。
 上位ブランドをベクトルの上位からならべ、前回購入データを入力、今回購入
データを出力としたとき、ブランド遷移行列が上三角行列になると仮定する。仮
定通りならば、嗜好性の高いすべてのブランド商品に対して適用が可能である。
 この仮定を自動車アンケートを実施して検証した。自動車のランク付けとジャ
ンル分けを行い、アンケートの結果を分析すると、遷移行列は当初の想定通り上
三角行列となった。また、分析の結果から年齢やライフスタイル、性別などのセ
グメンテーション変数別の傾向などを明確にすることができた。
 ジュエリー業界でも同様にブランド遷移行列を検証した。ここでも遷移行列は
上三角行列となった。また、購入目的や性別での購入時の思考の違いなどを明確
にした。
 また、本研究の拡張テーマとして①ブランド選択の収束プロセス、②複数ジャ
ンル製品へのモデル拡張、③新製品が投入されたケースへの対応などがあげられ
るが、どれも有効な効果を得ている。
 本手法は、①予測を繰り返すと消費者行動が収束し、市場の縮小を防ぐための
新ブランド投入の時期が明確になる。②ブランドの優先順位が客観的な形で明確
になり、ブランド選択を誘導するマーケティング戦略をとることも可能となる。
③消費者に夢を持たせる高位ブランドの設定が可能となり、購買に“目標”を持
たせることができ消費拡大にもつながる。
 本研究は品目数が多くなると分類が難しくなるが、他の製品にも適用が期待さ
れる。1社のみのデータでも分析することができ、データ次第では様々な分析が
可能である。

       (文責:大阪工業大学大学院 博士前期課程 1年次 田川 順也)

[参加者の感想]---------------------------------------------------------
 消費者がブランド品を購入する場合、以前に買った品よりも、より高級なもの
を志向する傾向にあるというのは確かであろう。発表では、その選択意識構造を
行列構造であらわし、下位から上位へ遷移することを自動車の購入データをもと
に示された。経済成長が著しい時代であれば、より顕著にその傾向が出たであろ
うと思われる。逆に、今のような低成長時代であれば、環境、ライフスタイルな
どの他の要因の影響が大きいと思われる。また、拡張されたモデルによって車の
乗り換えが自動車メーカー間で偏った傾向にあることも示されていた。このよう
に経営学的な視点で行列構造をさらに活用していくことのほかに、消費者の意識
構造とあわせて消費行動を分析することにも拡張していけるのではないか。いず
れにしても今後の発展に大変興味の持てる発表内容であったと思う。
                  (文責:本位田 光重(大阪工業大学))

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<講演2>

[講演内容のまとめ]-----------------------------------------------------
 日本の製造業は製品のライフサイクル短命化やグローバルな市場ニーズの変化
・多様化に対応して、製品生産拠点のグローバル最寄化を進めている。しかし、
その市場で販売される全ての製品を最寄化された生産拠点で完全にまかなうこと
はできず、他の生産拠点からの製品輸入も並行して行われている。また、市場で
のコスト競争は熾烈を極め、多くの部品を中国等からの国際調達に依存している
のが現状である。
 このように、製品や部品をグローバルな規模で調達することが必須となったた
めに、調達リードタイムが非常に長くなっている。21世紀の製造業においては、
グローバル化するサプライチェーン全体を通して、リアルタイムにモノと情報を
セットで把握・管理し見える化することで、在庫を適正化しながら変動する需要
に適切に対応できるフレキシブルな経営が求められる。
 ダイキン工業では、空調機・室外機の主要部品で国際調達部品に関して、外部
倉庫から工場内のデポ倉庫、さらにラインへの投入状況を把握し、RFIDを利用し
た、「リアルタイム見える化による在庫削減とリードタイム短縮」を目指したプ
ロジェクトを始動させた。
 しかし、工場内では光学式のバーコードが使用されておりRFIDの導入は現場作
業工数が増えることから、一意化バーコードを追加し、リアルタイム無線伝送と
高速サーバーに変更することで、現行の作業と同じ工数でリアルタイム見える化
を実現した。また、外部倉庫での部品の入出庫・在庫情報は日単位で自動でサー
バーに伝送し、外部倉庫・デポ倉庫・ライン側を統合して表示可能とし、工場内
在庫や外部倉庫を含めた総在庫に対し、基準在庫量から判断した過剰・逼迫とい
った状態を一目でわかるアラーム表示を、基準式とともに表示するようにした。
この結果、現場での自律的な在庫削減行動や部品の先入れ先出しの徹底などが図
れ、部品欠品監視と部品抑制に関わる業務の大幅効率化も達成でき、平均滞留時
間を改善することができた。
 家庭用空調機の販売は大きく季節変動がある。1年間をピークシーズンに向けた
先行生産する期間、夏季気候での生産・販売量を調整する期間、最終販売量を確
定し、部品を使い切り、製品を売り切るための調整期間の3つの期間に分割し市場
需要の季節変動に対応した生産調整・生販需給調整を行っている。
 今回の生販需給調整の見える化システムでは販売管理、物流管理、生産管理シ
ステムにリアルタイム部品管理システムを連携し、先行生産調整、夏季気候調整、
最終オーダー確認調整の3つの機能を実現した。さらに、機種毎に販売計画や生産
計画を変動してゆくことに対して、年間の総需要量の変化の見える化も実現した。
これらのデータを統合的に1つのグラフに表現し、機種別の需給状況を一目で確認
できるようにした。さらに夏季気候の状況や月単位の予定表、部品過不足グラフ
も実現した。

      (文責: 大阪工業大学大学院 博士前期課程 1年次 田川 順也)

[参加者の感想]---------------------------------------------------------
 日本のメーカーは、市場のコスト競争に勝ち抜くため、多くの部品を中国等か
らの国際調達に依存している。その結果調達リードタイムの長期化にならざるを
えない。その中で、リードタイム短縮と部品在庫削減の両者を実現することは、
かなり困難な課題である。本講演は、需要季節変動の大きい空調機のメーカーで、
上記の課題に果敢に挑戦している活動を報告頂いて、非常に参考になった。講演
の中では、ITを駆使され、計画立案から部品調達および生産指示に至るまでの
生産管理プロセスのなかで“リアルタイム見える化”を実現され、多大な効果を
挙げられている内容を具体的に説明された。素晴らしいシステムを構築しても、
その運用は、現場の作業者に任されており、彼らの継続する実行力が、成功のキ
ーポイントであると言われたことには、同感した。

          (文責:大坂 吉文(大坂コンサルタントオフィス))

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平成22年度 第1回定例セミナー
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日時:平成22年10月7日(木) 17:30~20:30
場所:大阪工業大学・大阪センター
参加者:21名
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<講演Ⅰ> 「新技術を新しいサービスにするには?」
 講演者:
 株式会社理研セルテック
 代表取締役 平田 史明 氏

(概要)
 幹細胞研究、再生医療研究を行っている神戸の理化学研究所、再生発生科学総
合研究所発ベンチャーである理研セルテックの代表取締役として、新技術を新し
い医療へつなげていくかというテーマでお話しいたします。
 中長期テーマの再生医療関連の研究開発に関して、世界的な現状と今後の展望
を述べるとともに、短期テーマのバイオメトリクス(生体情報認識技術)関連の
事業開発案件をご説明いたします。二つのテーマに対してどのようなアプローチ
で新しい技術を新しくかつ海外競争力のある医療サービス、ヘルスケア・サービ
スにまとめ上げていこうとしているかを中心にお話する予定です。
 質疑応答の時間は、「新技術と新医療とのギャップをどう埋めるか」について
の気軽で真剣なフリーディスカッションにできたらと思っております。
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<講演Ⅱ> 「産学連携活動業務の改善と今後の方向」
 講演者:
 大阪府立大学 産学官連携機構 府大・市大共同オフイス
 コーディネーター 竹崎 壽夫 氏

(概要)
 大阪府立大学の産学官連携機構に於ける業務推進の仕組みを紹介し、その中で
コーディネータが果たす役割と求められる能力・資質に言及しつつ、大学に課せ
られた社会的役割との対比で連携活動の今後の課題を考察する。
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   「学生会員による講演内容のまとめ」および「参加者の感想」
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<講演Ⅰ>

[講演内容のまとめ]-----------------------------------------------------
 自身を,科学者や技術者ではなく事業開発屋と呼称する平田氏は,サイエンス
(科学)のシーズとサービス(事業)のニーズを繋ぐブリッジの役目を担うこと
を目的として株式会社理研セルテック(以下,(株)理研セルテック)を設立し,
医療分野において事業開発を行っている.平田氏は,科学者と技術者が成果とし
て認識しているベクトルに違いがあると考えている.事業化には,このベクトル
の違いを意識・調整し,ヒト,モノ,カネ,トキの資源をスタートからゴールま
でをフェーズごとに考え,売り手よし,買い手よし,世間よしかをチェックし,
客観視して当初のミッションからずれていないことが重要であるとしている.
 新技術のサービス化として,(株)理研セルテックでは,生体認証技術の分野
で,非侵入型の機器によるホームケア,在宅診断支援の事業化を考えている.こ
の分野では,データを取得し,移動,解析,フィードバックのサイクルを回し,
利用者に対して生活改善の提案などを提示することがサービスに繋がる.例えば,
3次元センサが内蔵されている携帯電話をポケットに入れて歩くことで,歩行デ
ータを取得,簡単な歩行解析を行い,その結果から歩き方などについて個別のア
ドバイスを行うサービスなどがあげられる.
 また,平田氏は,近年注目されているiPS技術に関して,細胞自体の話ではな
く,細胞が持つ分化のプログラミングを逆に辿るリプログラミングの技術,つま
り,先祖がえりであると考えている.本来,細胞は,卵から分化して形作られて
いく仕組みだが,iPS技術は,それを逆に辿ることを可能にした点に凄さがある
としている.iPS技術の応用は,拒否反応の出ない根治治療法の開発などの医療
の長期課題への対応が可能と考えられおり,実際に,iPS由来の網膜細胞を用い
た視力回復の治療法が臨床試験段階となっている.
 新技術が社会的に信用されるには,その技術にニーズがあるかが重要である.
ニーズを生みだすには,基礎研究から応用研究まで,多くの技術が必要であり,
組織間調整やライセンス管理なども煩雑になるため,1組織ではなく,複数の企
業や団体が連携した組織的な活動が必要になる.
 アメリカでは,ARM(The Alliance for Regenerative Medicine)が,「可能
性を伝える」「政策を提案する」等を目的とし,大手企業や研究教育機関,ベン
チャー企業,患者団体などから組織を構成しており,患者団体がニーズを発信す
るだけでなく,研究や開発の資金を寄付するという仕組みで動いている.これま
で日本にはこういった仕組みはなかったが,現在,再生医療イノベーションフォ
ーラムが設立準備を行っており,ARMのような仕組みが日本で誕生する動きがあ
り,再生医療分野において新技術をサービスに繋げる仕組みの構築が期待されて
いる.

         (文責:明部 朝英(摂南大学大学院 博士前期課程 2年次))

[参加者の感想]---------------------------------------------------------
「事業開発屋」と自らを称された平田氏の講演は研究と社会を考える上で大変有
意義なものであった.技術者と技術屋は区別することができるが科学者に対して
科学屋ということは難しいと言われた部分には,社会に貢献するための心構えは
いかなるものなのかと考えさせられた.
平田氏のお話はクイズを挿入されたり,県民性や所属の意識などのウィットにも
富み,聴衆が自然と引き込まれるものであった.その中で,科学者が評価する論
文としてのベクトルと企業や社会が求める応用研究の実用としてのベクトルの違
いに関する話が,科学者が社会に関わっていくことが求められている昨今の状況
を鋭く指摘していた.
技術がサービスへと進化していくためには,その一連の流れにおけるフェーズや
プロセスごとに必要な人材が異なるという示唆は,「協働」の重要性が増す高度
な技術社会,情報社会における要諦と思われる.研究にはゴールがなく,その考
えを持つこと自体が科学者の良さであることをしっかりと認識されつつも,技術
がサービスとなるためには媒介となる人や組織が不可欠であるとの主張をされて
いたことが強く印象に残った.どのような研究やプロジェクトにおいても,当初
のミッションが目指す姿とずれていないかへの意識が大切であるとの言葉はこれ
からの学界への重要なメッセージだと思われる.
具体的な事例として,ゲノム研究や身体データのネットワークを介したフィード
バックによるサービスの提案などは,その有効性がイメージしやすく,応用研究
への興味,研究者の社会貢献へのモチベーションを湧き立てるものであった.さ
らにリハビリサービスに対する複数の学問領域のアプローチの違いやその意義に
ついての紹介には,多くの聴衆が興味を示していた.
講演の後半ではiPS研究の学術的意義への社会的なインパクトのみならず,学問
的意義への言及もあり,平田氏の深い洞察と広く社会を考える姿勢に心を打たれ
る思いがした.最後にソーシャルイノベーションの方向性が示されたことは,研
究者に対する強いメッセージであったと感じるとともに,産学協働への使命感を
モチベートする素晴らしい構成であったと感じている.
経営工学は応用に関する理解と実績を有する学問分野である.そうした関係から
も大変意味のある講演をしていただいたことに深く感謝申し上げる.
                    (文責:久保 貞也(摂南大学))

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<講演Ⅱ>

[講演内容のまとめ]-----------------------------------------------------
大阪府立大学産学官連携機構,府大・市大共同オフイスの活動の特徴は,「シー
ズの棚卸」や「企業ニーズ調査」,そしてその「シーズとニーズのマッチング」
に表れている.
まず,「シーズの棚卸」においては,コーディネーターが研究者に対して取材
を行っている.竹崎氏は,取材を行う際,研究の魅力や面白さがコーディネータ
ーにもわかるように説明してもらうという.これは,研究の内容が企業にも伝わ
るように見せることやそのシーズをわかりやすく整理することが狙いである.ま
た,竹崎氏は,今後,これらのシーズのPR方法に課題があるとしている.企業が
シーズを容易に検索できるようにするための工夫や大学から企業へ働きかけるよ
うな情報発信の方法,またそのツールの検討を行いたいとしている.
次に,「企業ニーズ調査」では,2008年に国の戦略や有望な市場分野,対象と
する企業を,主に二次データから抽出し,調査の基盤づくりを行った.2009年か
らは,前年に抽出した企業を対象にアンケートやヒアリング調査を行った.ヒア
リング調査では,網羅された学問領域を活かして,幅広い内容の相談を受け付け
る窓口や体制づくり,分野を横断したサービスが行われることなど,評価されて
いる点を活かした取り組みが期待されていることが結果として表れた.課題とし
ては,企業のプロセス管理やマーケティングといったニーズに応えるシーズの少
なさ,大学と企業のビジネス化に対する目的のギャップなどが表れた.竹崎氏は,
これらの課題への対応には,経営学や商学を専門とする教授陣が適任ではないか
と期待を寄せている.
最後に,「シーズとニーズのマッチング」においては,企業側が大学の研究室
を見学できる研究室ツアーや中小企業の技術相談を受け付けるホームドクター制
度などを行っている.ホームドクター制度とは,会員登録を行った中小企業の技
術相談に対して,コーディネーターや教授陣とともに解決策を討議できる制度で
ある.会員登録数や相談件数が毎年上昇していることをうけ,竹崎氏は,相談が
来た時点で,あるいは未回答のものがあった時点で迅速に丁寧に対応しているこ
とや地域貢献を目的とした相談価格の安さによる効果が表れているのではないか
としている.
竹崎氏は,今後,企業がシーズを見つける流れだけでなく,大学側も企業のニ
ーズを知ることや商品化への意識を持つ流れを作りだしたいとしている.そのた
め,先に述べたシーズのPR方法の改善や企業の研究所を大学側が見学できる企業
ツアーの開催,教授陣と企業の研究者が集い,語り合うサロンの設置などを計画
している.また,コーディネーターとしても,企業での研究開発や事業企画を行
った「経験」や専門的な学術分野の「知識」,新しいことに対する好奇心や意欲
をもった「資質」が今後必要になるとしている.シーズを活用して社会のニーズ
に還元すること,社会のニーズを刺激として新たなシーズを産みだすこと,そう
いった相互作用が生まれるような産学官連携を目的とした取り組みが動き出そう
としているのである.

      (文責: 中川 佳子(摂南大学大学院 博士前期課程 2年次))

[参加者の感想]---------------------------------------------------------
会社の目的や役割はいろいろありますが、究極的には社会貢献だと思います。
大学の目的や役割は何かと考えたとき、今回の講演を聞いてやはり大学も究極的
には社会貢献だと思いました。

大学の役割として、「研究と教育である。」ということはよく聞くのですが、今
回のお話では「研究と教育と社会貢献である。」と云われていました。
私は、この話を伺って目的はあくまで「社会貢献」なのだと思いました。
そして「研究と教育」はその手段であると思いました。

(1)「教育」を行い、有能な人材を社会に輩出していくこと。、
(2)「研究」を行い、その成果を社会へ提供していくこと。
ということだとすれば、

今回のご講演の「産学官連携活動」は非常に重要な取り組みをされていると感じ
ました。

個々の企業の状況をよく調査され、きめ細かいヒアリングなどを通じ企業のニー
ズを的確に把握すると共に、

企業ツアー(研究者が企業に入っていくツアー)やホームドクター制度など、
大学⇒企業へ 企業⇒大学へ という持続的な循環を構築する取り組みや

特に、中小企業向けには、利益を度外視して取組まれていることに非常にすばら
しい活動をされていると感じました。

          (文責:板垣 宏明(ダイキン情報システム株式会社))

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平成21年度 第2回定例セミナー
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日時:平成22年2月27日(土) 14:00~17:00
場所:ダイキン情報システム株式会社
参加者:21名
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<講演Ⅰ> 「積水化学グループのモノづくり革新 
      ~ MFCA導入の取り組み ~ 」

 講演者:
 積水化学工業株式会社 生産力革新センター モノづくり革新センター
 理事 沼田 雅史 氏

(概要)
 メーカーの競争力の原点はモノづくりであり,生産工場が利益の源泉であると
の考えに基づき,「モノづくり革新」の全社展開を推進してきた.「究極のコス
ト効率,ダントツの品質実現」と「事業の際立ち強化」を追求し,モノづくり起
因の不良ゼロ,事故ゼロ,そして製造現場等から出る廃棄物ゼロの「3つのゼロ」
を目標に掲げて活動を進め,「廃棄物ゼロ」を目指す活動として,マテリアルフ
ローコスト会計を全社に導入し,ロス改善を進めてきた.マテリアルフローコス
ト会計導入の課題と有効活用について述べたい.
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<講演Ⅱ> 「サプライチェーンマネジメントにおける同時最適化手法
      ~ アルゴリズムと事例紹介 ~ 」

 講演者:
 大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻
 社会システム数理領域システム数理講座

 准教授 西 竜志 氏

(概要)
 サプライチェーンマネジメントにおいては,生産計画,輸送計画,スケジュー
リング,在庫管理など,従来から個別に用いられてきた決定モデルを統合して,
全体を同時に最適化することが求められる.本講演では,サプライチェーンマネ
ジメントにおける同時最適化手法について,基礎となるアルゴリズムや応用事例
などについて概説する.さらに,講演者らの最近の研究成果である企業間生産計
画の最適化,離散事象システムモデルを用いた分解手法による汎用スケジューラ
やカット生成を用いた分解法などについて解説する.
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   「学生会員による講演内容のまとめ」および「参加者の感想」
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<講演Ⅰ>

[講演内容のまとめ]-----------------------------------------------------
 積水化学グループでは環境と経営の両立を狙いに、生産工程の廃棄物、CO2等
の環境に負荷を与える物質削減の方向性を明確化し、ムダコスト削減を図る目的
で、全社へのマテリアルフローコスト活動としてマテリアルフローコスト会計
(MFCA)の導入を決定した。この活動は、生産活動において廃棄物を生み出すた
めに使った費用のすべてを削減(革新)の対象とするものである。徹底したロス
コスト削減の活動ステップとしてモノづくり現場ロスを分析したところ、全社ロ
ス合計は175億円であり、そのうち約60%の103億円が原材料のロスであ
ることがわかった。ここで2006~2008年の3年間の削減目標を50億円
としてロス削減活動を行った。
 また、積水化学グループは、「モノづくり力=事業の競争力」強化のため、全
社レベルの革新牽引役として「モノづくり革新センター」を2006年に設立し
た。体制としては、ライン毎にモニタリングを実施しPDCAを回すこととした。モ
ノづくり革新活動は、(1)お客様尊重のモノづくり、(2)従業員尊重のモノ
づくり、(3)環境尊重のモノづくり、という観点から活動を進めている。その
際に、バリューチェーン全体を革新することに取り組んでいる。
 MFCAの導入は環境尊重のモノづくりという観点から重要視されている。マテリ
アルフローコスト活動に取り組んだことで、2006~2008年度ロスコスト
削減が70億円超という成果が得られた。また今後の課題として、生産プロセス
まで踏み込んだ改善、住宅施工現場改善および海外事業所取組が挙げられている。

      (文責:宇野 由宏(大阪府立大学大学院,博士前期課程1年))

[参加者の感想]---------------------------------------------------------
 環境経営をめざして、全社的な取組みを説明されましたが、会場での活発な質
疑応答がとくに有意義であったと思います。積水化学でも経産省のモデル事業と
して試行をスタートさせ、その後を自社で展開したとのことですから、大企業を
中心に関心は高まりつつあるとはいえ、担当人員の問題もあり、普及しないのは
当然かもしれません。今後は、工場出荷後の製品ライフサイクルでの環境負荷の
軽減までを考慮してほしいものです。

                    (文責:黒沢 敏朗(摂南大学))

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<講演Ⅱ>

[講演内容のまとめ]-----------------------------------------------------
 サプライチェーンマネジメントとは資材調達・生産・販売プロセスの統合管理
である。サプライチェーン最適化において、まず生産計画とスケジューリングの
統合を行った。これにより、資材調達から生産、物流、販売までを考慮した生産
計画とスケジューリングの同時最適化が図られた。
 本研究では、資材調達計画サブ問題、スケジューリングサブ問題、受注出荷計
画サブ問題に分割し、それぞれのサブシステムで最適化した結果を各サブシステ
ムが情報交換を行い反映することで全体最適を図った。
 また、不確実需要下での生産計画とスケジューリングの例として、需要量のみ
ならず納期も変動するような新聞売り子問題に対して、フィードバックによる在
庫量の決定手法を適用した。
 複数企業間生産計画の同時最適化については、従来、出荷計画と入荷計画のず
れは人同士が調整していたが、本研究では限られた情報のみで全体最適化を行う
ために、拡張ラグランジュ分解調整法を用いた分散型最適化システムを提案した。
 さらに、2段階分解法による物流と生産の同時スケジューリングに取り組んだ。
この研究では、工程における仕事の処理順序と開始時刻、AGVのルーティングに
おける搬送要求の割当と経路計画などを決定する問題を定式化した。この問題に
対しては制約を緩和した搬送要求の割当問題を主問題、その結果得られた決定変
数を固定して残りの決定変数を決定し、実行可能性を判定する問題を副問題とし
て実行可能解を得るアプローチをとった。提案法によれば、CPLEXによるものと
遜色のない解が得られる上、CPLEXでは計算時間がかかりすぎるような、より大
規模な問題に対しても良好な実行可能解を得ることができた。
 今後の課題として経営管理と中期計画、販売計画との統合、ロジスティックス
とスケジューリングの統合、サプライチェーンの設計などが挙げられる。

      (文責:宇野 由宏(大阪府立大学大学院,博士前期課程1年))

[参加者の感想]---------------------------------------------------------
 個人的な話になりますが、私は情報システム部門で生産管理システムを担当し
ており、特に組み立て系のSCMにおける生産計画立案システムの構築を永年担
当してきました。今回の講演内容と自分の今まで取組んできたシステムの考え方
の整合性を取りながら拝聴させていただきました。
 制約性理論の話や各種計画立案のプロセスについて、基本的な考え方は同じで
あることが確認できました。しかし、実際には、今回お聞かせいただいたような
高度なアルゴリズムを活用するには至っておりません。以前にSCP(サプライ
チェーンプランニング)の市販ソフトを調査したこともありましたが、そのとき
に、部門から情報システムに求められたものは、以下の点で大きく異なっていた
ように思います。
1.制約条件について
  営業の販売計画を受けて生産側の制約(ラインの能力など)を考慮しながら
  生産計画を決めていくのですが、実際には生産側の制約で生産計画を調整す
  るのではなく制約を如何に取り除いて、販売計画を100%満たす生産計画
  を立てるかが求められます。
2.需要予測について
  各部門で需要予測を立て、それに基づいて、生産準備(ラインの能力や部品
  の確保)を同時並行で進めるのですが、実際には予測は当たらないことを前
  提にし、むしろ市場の変化に如何にすばやく対応し、生産計画に反映するか
  の仕掛けを構築することが求められます。
 最後に、今回の講演では詳しくは紹介されませんでしたが、
  ・収益管理と生産計画の統合モデル
  ・企業間契約と生産計画の統合モデル
に取組もうとされていましたが、そういう考え方は非常に参考になりました。

          (文責:板垣 宏明(ダイキン情報システム株式会社))

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平成21年度 第1回定例セミナー
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日時:平成21年10月24日(土) 14:00~17:00
場所:ダイキン情報システム株式会社
参加者:22名
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<講演Ⅰ> 「業務文書処理への自然言語処理の応用
     ~大量の文書の分類整理、文書品質の向上~」


 講演者:東芝ソリューション株式会社 IT技術研究所
     守安 隆 氏

(概要)
 企業活動では日々大量の業務文書を産み,受取り,送付,開示し,蓄積してい
る.文書は情報の伝達,記録に,企業活動の正当性を示すために使われる.大量
の文書は人手で整理分析,活用することは困難である.また作成する文書の品質
も大きな経営リスクである.ここでは自然言語処理を用いた,大量の文書の分類
整理,文書の不適切な表現のレビューについて紹介する.
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<講演Ⅱ> 「機械生産における組立精度と運動精度について
     ~部品の幾何学的な精度が組立品精度に与える影響~」


 講演者:大阪府立大学大学院 工学研究科 機械工学分野 教授
     杉村 延広 氏

(概要)
 機械製品の組立においては,全体の精度をどのように保障するかが非常に重要
である.本講演では,機械設計における精度の考え方および現状のCAD/CAMシス
テムにおいて実装されている寸法などの精度の解析方法などについて概説する.
さらに,講演者らが検討している内容,すなわちJIS(日本工業規格)で規定さ
れている幾何公差の考え方に基づいて,部品の精度が組立品の精度に与える影響
を解析する手法について解説する.
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   「学生会員による講演内容のまとめ」および「参加者の感想」
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<講演Ⅰ>

[講演内容のまとめ]-----------------------------------------------------
 顧客の満足度は企業の業績にとって大きな要因であり、顧客の声、製品やサー
ビスの品質情報、市場ニーズにすばやく的確に対応する必要がある。また、法令
遵守、CSR、ステークホルダーへの説明責任など企業として社会への責任がます
ます求められている。企業活動継続の上で資産としての情報・知識をどのように
管理して使うかが重要になってきている。ところが、近年、コンピュータの普及
により情報量の増大が起こっている。これら増大する情報を分類・整理するため
に情報システムと対話して情報を整理・分類する「対話型分類」のプロセスを開
発したので、それを紹介する。
 「対話型分類」のプロセスは、①システムによる自動分類、②ユーザによる分
類構造の編集、③編集結果を反映した再分類、④分類結果の理解と活用、の流れ
で分類する。特許情報や製品の不具合情報など膨大な数の資料を読まなければい
けない場合には、過去の類似事例を整理することで、日々増加する情報を継続的
に分類し、新たな問題点の発見に活かすことができる。また、企業が求められる
コンプライアンスの厳格化やCSRの拡大など、企業活動の対応すべき範囲は広範
で複雑化しているため「規定管理」の重要性が増大している。このような問題に
も、規定情報を構造化し、規定間の関連性を構築することができる。
 さらに、文書の「質」に関する問題として、業務文書での日本語の誤りや不適
切な表現によるリスクがある。これらを事前に発見し、リスクを低減する業務文
書チェックが必要となる。このようなチェックシステムの適用例としては、数値
レポートチェック、中国オフシェア開発向け仕様書チェック、RCM(Risk Control
Matrix)チェックが挙げられる。工学としての自然言語処理では、コンピュータ
にどこまで文書を読ませれば実用化できるのかを見極めることが重要となる。

      (文責:田村 正樹(大阪府立大学大学院,博士前期課程1年))

[参加者の感想]---------------------------------------------------------
 昨今IT技術の進歩で、パソコンや携帯電話で気軽にメールや文章などの情報
を作成できるようになった。その結果蓄積されている情報量も膨大な量になって
きている。自然言語処理技術の発展によりそれらの情報利活用を支援するITソ
リューションがどこまで進んでいるかを具体的な事例をあげて発表され、非常に
有意義で参考になった。今回発表の自然言語処理技術開発は、講師が述べたよう
に、文書を活性化することが、企業活動活性化につながるし、経営工学の立場か
らみれば、その結果としての日本の弱点である企業の管理・間接部門の生産性向
上に大いに貢献するものだと大いに期待できる。ただ、受講者から、こういった
システムの導入に対する費用はどのくらいかかるかの質問があったが、講師から、
明確な回答が得られないのが残念だった。

            (文責:大坂 吉文(住金マネジメント株式会社))

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<講演Ⅱ>

[講演内容のまとめ]-----------------------------------------------------
 大阪府立大学機械生産工学研究室では、幾何学的偏差の解析・幾何学的精度設
計を研究テーマとして取り組んでいる。ロッドやシャフトを生産する工作機械に
は高い精度が求められる。設計において「寸法公差」とは寸法の最大値と最小値
の差であり、「幾何公差」とは設計の際に意図された寸法(設計値)に対して、ど
の程度の誤差を許容できるかという範囲を示すもので、3次元的な許容範囲(公
差域)が明確となる。公差管理・品質管理の観点から3次元幾何公差の取扱いが
必要になっている。このことから、3次元モデルにおける幾何公差の設計・解析
と統計的な性質に基づく幾何偏差の解析が行われている。
 機械部品の幾何偏差の確率的解析では、幾何公差が指定された部品の幾何偏差
のモデル化と解析を行う。フィーチャの幾何偏差の統計的ばらつきから不良率を
仮定した場合に、モンテカルロシミュレーションを適用してフィーチャの幾何偏
差を表す変数の標準偏差を推定する。次に、組立可能性評価への適用では、構成
部品の幾何学的偏差に基づく組立品の幾何学的偏差および良品率の解析と最大実
体公差方式を用いた場合の良品率の解析を行う。この最大実体公差方式を適用す
ることにより、穴と軸の組立可能性(良品率)を推定することができる。また、こ
の方式を用いることで良品率が向上する。
 最後に、工作機械の運動偏差の解析では、工作機械の構成要素間を接続する案
内面などのフィーチャについて、幾何偏差や接続の優先順位を考慮した上で、構
成要素間に生じる相対運動偏差を解析・評価するための手法を提案している。直
線案内テーブルの幾何偏差を表現する行列を求めるとともに、3軸マシニングセ
ンタにおける工具と工作物間の形状創成運動の偏差を表すモデルを提案し、解析
を行っている。将来の課題としては、複雑な工作機械の解析と公差の配分問題の
検討がある。

      (文責:田村 正樹(大阪府立大学大学院,博士前期課程1年))

[参加者の感想]---------------------------------------------------------
 経営工学の源流の一つとしてホイットニーの互換性が挙げられることが多いが、
この互換性を可能にするためになくてはならないのが「公差」の概念である。加
工工程と組立工程を時間・空間的に分離するのが工程間の在庫であるならば、そ
れらの工程を技術・技能的に分離するのが公差であるともいえよう。在庫の連鎖
であるサプライチェーンと同じように、公差の連鎖であるトレランスチェーンも、
経営工学の研究対象として興味深いのではないか。公差研究の第一人者であられ
る杉村先生のご講演を拝聴しながら、そんなことを考えさせられた。幸い杉村先
生も経営工学との共同研究を呼び掛けておられた。本講演が新たなコラボレーシ
ョンのきっかけになることを期待したい。

                     (文責:水山 元(京都大学))

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平成20年度 第2回定例セミナー
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日時:平成21年2月28日(土) 14:00~17:00
場所:ダイキン情報システム株式会社
参加者:23名
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<講演Ⅰ> 市場で成功する製品開発と開発・設計プロセス工学技術

 講演者: 林 技術士事務所 代表,技術士(情報工学部門)
      林 利弘 氏

(概要)
 市場で成功するための製品開発を確実に行うためには、開発プロセスを的確に
支援する工学技術群を援用し、意図した目的を如何に効果的かつ効率的に達成す
るかが求められている。このための技術体系を「開発・設計プロセス工学技術」
と呼んでいるが、本講演ではその全体像と、開発の最上流である開発戦略策定
フェーズにおいて必要となる市場・技術動向予測および市場で勝てる製品戦略策
定に有効な各種思考フレームについてその概要を紹介する。
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<講演Ⅱ> 積水化学グループにおけるモノづくり革新活動

 講演者: 積水化学工業株式会社 R&Dセンター
      モノづくり革新センター ヘッド
      絹村 章 氏

(概要)
 積水化学グループにおいて、中期経営ビジョンの経営目標を達成するための重
点施策として展開された「モノづくり革新活動」の概要を報告する。不良ゼロ、
クレームゼロ、事故ゼロ、廃棄物ゼロの4つのゼロを切り口に、モノづくり現場
における課題を総合的に整理し、その課題に対して最も有効な手法や技術を適用
して、革新のメスを入れた。コーポレートとカンパニーが一体となった活動を展
開し、3年間で約140億円の利益創出につなげることができた。
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   「学生会員による講演内容のまとめ」および「参加者の感想」
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<講演Ⅰ>

[講演内容のまとめ]-----------------------------------------------------
 今日,日本の製品開発においてモノづくりに要求される能力が焦点となってい
る.市場は「工業社会」から「変化と多様性の市場社会・環境社会」へと変化し,
今まで求められてきた生産力重視だった時代から市場価値力や社会価値力重視の
時代へと変化している.そこで人文・社会科学的アプローチや専門技術ではない
プロセス視点の工学技術を取り入れた「開発・設計プロセス工学技術」といわれ
る考え方が,重要となっている。
 そこでは,個別の技術に特化せず,開発・設計におけるエンジニアリングプロ
セスをシステマティックに遂行し,必要な検討を漏れなく,ダブりなく,手戻り
なく実行することが求められている.そのような活動を支援するのが開発・設計
プロセス工学技術である.この技術は,①最も市場可能性の高い製品開発戦略案,
②機能・性能・コスト面における最適な開発・設計方式と仕様案,③解決すべき
課題や提言すべきリスクと必要期限を明確にした開発プロジェクト計画案の3案
を創出・実行し,フロントローディングな活動を可能にするものである.
 このようなプロセス技術として,市場・技術の明確な予測のための思考フレー
ムTRIZ(トゥリーズ:発明的問題解決理論),未来予測手法や製品・事業戦略立
案のための思考フレームなどがある.これらの思考フレームを活用し,中長期的
な市場・技術予測やビジネス戦略案の創出を行うことは,新商品/新製品開発に
対する視野を広げ,視点を多面化し,思い込みを排除し,大きな自然の流れ・本
質的ニーズを掴むことを可能にする.
 既に一線で日常の開発・設計業務に従事している多忙な研究者・技術者に,こ
ういった汎用的もしくはマネジメント系の技術を教育していくことはなかなか難
しい.この意味で,「開発・設計プロセス工学技術」が,今後の大学工学部系の
共通カリキュラムとして取り入れられることが期待される.

      (文責:竹原 義識(大阪工業大学大学院,博士前期課程2年))

[参加者の感想]---------------------------------------------------------
 新製品開発に有効な「開発・設計プロセス工学技術」についての紹介で,内容
の濃い講演でした.「モノ(製品・技術の付加価値向上)×コト(市場・社会で
の付加価値向上)」で新製品開発を考えるべし,との実践的な指摘に共感しまし
た.そのための各種思考フレームとして,TRIZ(発明的問題解決理論)の紹介も
理解し易い講演でした.願わくば,具体的な商品開発の成功事例をひとつだけ付
け加えていただければ満足度が高くなると思いました.しかし,限られた時間で
したので高望みかもしれません.

                     (文責:綿田 弘(近畿大学))

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<講演Ⅱ>

[講演内容のまとめ]-----------------------------------------------------
 積水化学工業株式会社では,現在「モノづくり革新」に力を入れている.この
革新は,「GS21-GO!フロンティア」と呼ばれ,成長フロンティアの開拓とCSR
経営の強化を行っている.革新では,「市場」「モノづくり」「人材」の3つを
推進し,際立ちとして「CS品質」「環境」「人材」で事業を通じて社会に貢献す
ることを掲げている.「モノづくり革新」の目的として,お客様尊重のモノづく
り,従業員尊重のモノづくり,環境尊重のモノづくりの3つがある.この3つの
革新を進めることで,クレームゼロ・不良ゼロ,事故ゼロ,廃棄物ゼロを目的と
し,ダントツの「モノづくり競争力」として満足度を100%,生産性をN 倍,コス
ト1/N を実現することを目標としている.そして,この革新を実践することで成
長と高収益化を狙い「成長フロンティアの開拓」に最注力し,社会に貢献する真
のプレミアムカンパニーを目指している.
 特に積水流IEと称して,生産性向上のために効果を発揮しているVE技術を融合
した目的思考の設計的アプローチについての紹介があった.
 現在,品質・環境・安全の4つのゼロ「クレームゼロ,不良ゼロ,廃棄物ゼロ,
事故ゼロ」を目標に事業を進めることにより「モノづくり」に対する思想や革新
活動がグループ全体に行き渡り,これとともに営業利益に貢献することができて
いる.今後の方向性として,モノづくり革新の継続と深化とモノづくり革新の進
化・新化に力を入れていくことが次の課題である.

      (文責:竹原 義識(大阪工業大学大学院,博士前期課程2年))

[参加者の感想]---------------------------------------------------------
 講演者の絹村先生から積水化学グループでの「モノづくり革新」の内容を具体
的にお聞きでき,大変有益な内容であった.また「モノづくり革新」の成功の秘
訣は次の3点であると感じた.①Quick Winによるモノづくり革新活動の垂直立上
げ,②マテリアルフローコスト導入による環境負荷,コストの見える化,③積水
IE活動のDNAである.①は,技術開発革新のツールとしての品質工学の有効性を
モデル拠点で実証し,革新後の姿を経営層および技術者に明示し,「モノづくり
革新」に対する味方を増やし,活動へのスピードアップを図っている.②は,環
境負荷の軽減,コスト意識の醸成をいう観点で有効であり,見える化することで
カンパニー間での競争意識を植え付け,効果の最大化を狙っているものと感じた.
③は,1947年の創業以来,活用しているIE手法を進化させた積水流IE(自分達の
得意技)での確実な成果出しである.

            (文責:島津 忠司(日本アイビーエム株式会社))

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平成20年度 第1回定例セミナー
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日時:平成20年10月4日(土) 14:00~17:00
場所:ダイキン情報システム株式会社
参加者:24名
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<講演Ⅰ> 見える化を機軸とした継続的改善活動

 講演者: 住友金属工業株式会社 鋼管カンパニー
      栢谷 裕之 氏

(概要)
 製鉄所の生産性向上に資するべく、製造ラインの作業効率化、在庫管理・製造
進捗管理・生産計画業務のレベルアップ、技能伝承活動等の支援をするため、
「見える化」というキーワードを意識しながら、各々の活動に対する仕掛けを模
索し推進してきた。従来の方法論と大きな違いはないが、お互いに見える、隠れ
ていた情報が見える、見やすくなる、といった工夫をすることで、仕事の改善が
進めやすくなったと感じている。上記業務の概要について紹介する。
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<講演Ⅱ> 学習する組織とは

 講演者: 株式会社スコラ・コンサルト
      高木 穣 氏

(概要)
 「学習する組織」は1990年ピーターセンゲ氏によって提唱された新しい経
営のコンセプトです。
 「学習する組織」では、変化の時代に対応しうる「変化し続ける組織」「人が
生き生きと働ける組織」になるための5つのディシプリン(修練項目)を掲げて
います。この5つの中から特に「システム思考」を中心にとりあげ、このコンセ
プトをご紹介していきます。
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   「学生会員による講演内容のまとめ」および「参加者の感想」
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<講演Ⅰ>

[講演内容のまとめ]-----------------------------------------------------
 製鉄所の生産性向上の追及のために、「見える化」に基づく改善活動を行った。
 製造ラインの運転・段取替え作業については「見える化」を強化し、組作業を
考慮したMan-Machineチャートの作成や、遅れ余裕も考慮した改善案策定により、
実態に即した余裕時間の設定が可能となり、律速作業の把握は容易となった。ま
た、ビデオカメラによる映像撮影やOTRSを用いた作業分析を行い、実際の作業員
に見せることでわかりやすい説明やリアルな議論が可能となった。
 在庫進捗において、リードタイム短縮のための「V(Visible)プロジェクト活動」
を発足した。このプロジェクトでは、情報の伝達、確認作業、信頼性向上のため
に情報系D/Bを使用し、在庫をわかりやすく「目に見える情報」として共有化す
ることを試みた。製品仕掛在庫を日々工程毎にボード掲示し、在庫挙動が多くの
人の目に触れるという「気付きの仕掛け」を実施した。長期在庫については、在
庫を品種別、部課別に分類し、関係各部門に提示することで、客先引取り推進依
頼や生産計画フィードバックが行われ、在庫が大幅に減少した。製造進捗管理に
ついては、データ収集加工に多くの時間を消費しているという問題があるため、
倉入促進のために必要なデータを「見える化」することでアクションの迅速化を
図った。予備品在庫使用量においては、発注ロットを基本1個とし、調達速度の
短縮、消費速度の拡大、発注点の明確化など、在庫量把握の簡素化を行った。成
果としては、置き場の整理整頓の進展、予備品原単位低減、適正発注の風土の確
立により、在庫高が減少した。
 「技能習熟度、伝承度の見える化」については、作業別技能習熟度人数把握な
どの技能習熟度マップを作成し、必要数に対する充足度の確認が容易となり対策
がとりやすくなった。また、共通マニュアルの作成やイントラネット掲載により
誰でも編集可能な所内用語集を作成し、異部門のスタッフ間の知識の連結化が期
待される。

      (文責:清水 慎二(大阪工業大学大学院,博士前期課程1年))

[参加者の感想]---------------------------------------------------------
 バブル崩壊後,同社の視点は生産性向上から徹底したコストダウンへと移行し
た.これらの活動は成果を結び,近年の右肩上がりの需要と共に業績を回復,企
業収益を改善している.一方では,さらなる体質強化のためには,従業員が自律
的に働く仕組みづくりが重要であり,「見える化」の取り組みが開始した.今回
の取り組みでは,(1)生産活動の効率化,(2)生産に付帯する業務の効率化,(3)
生産に携わる人的基盤の構築,を目的とし,生産性向上をあるべき姿として見え
る化の取り組みを進めている.講演では,チャートやビジュアル機器を活用した
ラインの見える化,在庫ボードや現物管理での在庫の見える化など具体的な事例
を示し,説明いただけた点がわかりやすく,実務者にとっては実践のヒントにな
ったのではないかと思う.また,人材育成のためのマニュアルの見える化事例に
ついても興味深い内容であった.

                 (文責:皆川 健多郎(大阪工業大学))

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<講演Ⅱ>

[講演内容のまとめ]-----------------------------------------------------
 「学習する組織」は、1990年MITスローン校経営学部講師のピーターセンゲに
よって「The FIFTH DISCIPLINE」で発表され、その定義は、「人間が力を生かし
ながら環境に応じて変化、成長する組織」という考え方である。
学習する組織」には、5つの修練項目(「自己マスタリー」「共有ビジョン」
「メンタルモデル」「チーム学習」「システム思考」)が存在する。メンタルモ
デルとは何らかの経験や成功などによって頭に染み付いた固定観念のことであり、
それが学習障害として存在し、企業が環境に応じて変化していくことを妨げる原
因となる。
 システム思考は、さまざまな力の相互関連性に眼を向け、それらを共通のプロ
セスの一部分として理解することを目的としたメソッド・ツールを指す。システ
ム思考において、「システムは循環している」という考えが存在し、その循環は
拡張循環と平衡循環の2つに分けられる。ある状況に対していくつかの要因を取
り上げ要因の関係性をループ図で表わす場合に、拡張循環とは、ループが悪循環
となるサイクルのことである。平衡循環は、いくつかの要因の増加と減少が交互
に繰り返されるサイクルのことである。これらの循環サイクルはループを描いて
いるため、どこの要因の時点で手を打っても改善できるという利点がある。
 拡張循環と平衡循環を組み合わせてつくられるシステムの原型としては、「逆
効果の応急処置」や「成長の限界」のシステムが存在する。前者は、「長い低迷
の所々に小さな成果が見られる状態で、同じ解決策を繰り返すうちにそれ以外の
方法を試みることを拒み問題の症状が悪くなる」という現象であり、後者は、
「成長が進む過程で新たなループが生まれ、システムが何らかの抵抗力の要因に
突き当たり成長しなくなる」という現象である。これらの現象は、システム思考
のループ図を作成することで企業でのメンタルモデルを見直し、組織で起こって
いる実態を受け止めることに役立つ。

      (文責:清水 慎二(大阪工業大学大学院,博士前期課程1年))

[参加者の感想]---------------------------------------------------------
 「学習する組織」は1990年代のはじめにPeter.M.Senge(MIT経営学部教授)が、
世界が益々緊密になり、ビジネスがさらに複雑化しダイナミックになるにつれ、
仕事は益々学習する側面が増え、1人の戦略家の指示に皆が従うというやり方で
はもはや対応不可能であるとして、提唱したコンセプトであり、新しい組織のあ
り方を示唆する重要な考え方の一つであるとして、その後、日本においても広く
注目され、経営学者や実務家により関連する書物が多数出版されてきた。今回の
講演では、そのコンセプトの紹介をねらいとし、特に「システム思考」を中心に
解説された。入門的な解説としては意味があったと思われるが、講師の日頃のご
体験を通しての、学習する組織に関連するコンサルタント事例、たとえば考え方
を実践するに当たっての課題、解決策、成功事例等に関する話を期待していた者
には物足りなさを感じる内容であった。

                  (文責:宇井 徹雄(大阪工業大学))

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平成19年度 第2回定例セミナー
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日時:平成20年2月16日(土) 14:00~17:00
場所:ダイキン情報システム株式会社
参加者:23名
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<講演Ⅰ> 企業経験に基づく数式を使わないマネジメント・サイエンス

 講演者: 流通科学大学 商学部 教授
       野口 博司 氏

(概要)
国内外の大学院のMBAコースでは、マネジメント・サイエンスを必須科目としているところが多く、 その内容はLPを用いた最適化問題やAHPなどの数値解析法が教授されている。 しかし、これら数値解析法とは別に、私の企業体験から、言語データを扱った定性的な整理方法で サイエンスとみなせるものも数多くある。今回、このような数式を使わないマネジメント・サイエンス についての一部を紹介する。また実施上で工夫した体験談も披露する。
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<講演Ⅱ> 積水化学グループのCSR経営

 講演者: 積水化学工業(株)CSR部グループ長
       近藤 賢 氏

(概要)
企業の社会的責任(CSR)に対する取組み強化の必要性がさけばれるなか、 当社でも2005年から本格的にCSR経営に取り組み始めた。 当社のCSR経営は「環境」「CS品質」「人材」の3つの際立ちと 「コンプライアンス」「情報開示と対話」「リスクマネジメント」の 3つの誠実さから成り立っている。これら3つの際立ちと3つの誠実さ に関する取組みの一端を紹介することで、他企業のCSR経営の参考になればと考える。 ************************************************************************

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   「学生会員による講演内容のまとめ」および「参加者の感想」
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<講演Ⅰ>

[講演内容のまとめ]-----------------------------------------------------
 一般的に経営学では、マネジメントを「管理」としている。ドラッカーは、
「現代の経営」により、マネジメントを「組織的な成果をあげるための機能、道
具、機関」とし、人間に属するものではなく、仕組みや役割そのものであるとし
た。また、マネジメント・サイエンスとは、経営上の意思決定をおこなう「数学
的なアプローチ」や、問題の本質的側面を表現する「数理モデル」と定義されて
いるが、人を通じての目的達成の合理的なやり方の「科学または技法」といった
定義もある。つまり、必ずしも数学的な表現方法だけに限った学問ではなく、目
的を達成するための合理的な考え方をおこなう学問であるといえる。
 現在、マネジメント・サイエンスは、文系・理系を問わず多くの学部で必須科
目とされている。しかし、その内容はLPを用いた最適化問題やAHPなどの数値解
析法を教授する内容となっており、文系学生の多くは、授業に対して興味を持ち
にくく、内容に対する理解も深まりにくい状態となっている。このような学生達
に興味を持ってもらい、マネジメント・サイエンスの本質である「目的達成のた
めの合理的な考え方」を学んでもらうため、数式を用いない授業内容を現在、商
学部の学生を対象におこなっている。授業の演習内容として、学生は市場、商品、
顧客、競合相手、供給者の観点から事業の概要を考える。そして、M.E.ポーター
のFive Force Modelにより事業領域の評価をおこない、事業計画を立てていくと
いうものである。このような授業内容にすることで、数式を授業の中心に用いて
いた頃より学生の出席率が上がり、成績も良くなった。つまり、学生の理解が以
前よりも深まったと考えられる。
 マネジメント・サイエンスにおいて数理モデルなどの要素は、必要不可欠であ
る。しかし、学生に本質を理解してもらうためには、まず、興味を抱いてもらい
「目的達成のための合理的な考えかた」を理解してもらうことが必要となる。

      (文責:五百蔵 晃嗣(大阪工業大学大学院、博士前期課程2年))

[参加者の感想]---------------------------------------------------------
 企業や社会経験にも乏しい学生達にマネジメント・サイエンスを教えることの
難しさは、おそらく教職にある多くの方が経験されることだと思う。
 マネジメント・サイエンスを「目的達成のための合理的な考え方をする学問」
と定義づけ、数式などになじみにくい文科系の学生に対しては、FIVE FORCE分析
を活用して事業モデルを考えさせるなど興味を喚起し、これをベースに戦略論、
各種分析論等々の実践的講義を展開、徐々に数理的手法に導くなどの工夫は絶妙
である。
 マネジメント・サイエンスにおいて、課題形成や課題解決の基本がマインドで
あることを考えるならば、敢えて「数式を使わないマネジメント・サイエンス」
を入り口とする講義の展開方法は当を得たものともいえる。「人を見て法を説け」
以って肝に銘ずべしである。
 「文科系の学生と技術系学生との感覚の違い」も大変興味深かった。

              (文責:河合 眞起人(河合経営研究所 所長))

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<講演Ⅱ>

[講演内容のまとめ]-----------------------------------------------------
 昨今、企業には社会的責任CSR (Corporate Social Responsibility)に対する
取組の強化が求められている。積水化学グループにおけるCSR経営の基本理念は、
「3つの際立ち」=「環境」、「CS品質」、「人材」と、「3つの誠実さ」=「コ
ンプライアンス」、「リスクマネジメント」、「情報開示と対話」から成り立っ
ている。
 まず、「環境」での際立ちのキーワードとして「エコロジー」と「エコノミー」
の両立というものが挙げられる。現在、環境を配慮した製品を生産することは、
企業にとってすでに一般的となっており、これからは、顧客や社会の環境負荷低
減に貢献できる製品を生産するスタイルへと移行する必要があるといえる。「CS
品質」での際立ちとは、モノの品質、仕組みの品質、人の品質をそれぞれ際立た
せ、製品を提供するということである。現状は、他社と「比較される」品質とい
う段階にとどまっている。この状態から顧客の声を基に、「基盤品質」の強化、
「魅力品質」の創出をおこない、事業を際立たせ「指名される」品質という段階
へ移行することが目標である。「人材」での際立ちとは、従業員を育てることは
社会に対する企業の責任であり、従業員は「社会からお預かりした貴重な財産」
であるという考え方に基づき社員の育成をおこなうというものである。「手を挙
げる人事」を基本としており、チャレンジの場づくり、自ら学び成長する風土、
成果主義といった、社員が自主的に成長できる環境作りをおこなっている。
 最後に、「コンプライアンス経営」とは、従業員一人ひとりが誠実さをモット
ーとし、広く社会から信頼される企業を目指すというものである。取組として
「S・C・A・N(Sekisui Compliance Assist Network)」があり、従業員が意見を述
べやすい仕組みづくりをおこなっている。
 現在、企業の評価は、財務成績だけではなくCSRと併せておこなわれている。
営業利益の大きさも大切だが、営業利益の「品質」、つまり、CSR経営(営業利益
を生み出すプロセスの品質)も同様に重要となる。

      (文責:五百蔵 晃嗣(大阪工業大学大学院、博士前期課程2年))

[参加者の感想]---------------------------------------------------------
建築および建築資材の業界からのCSRに関しての報告があるということで大変
興味を持って聴講させていただきました。正直なところ、この業界は品質保証や
消費者の保護に関しては他の業界に比べて大変遅れていると見られているからで
す。しかし、今回の報告では積水化学が全社で真摯に、かつオーソドックスに
CSRに取り組んでおられることがよくわかりました。本音を言えば、現状の姿
だけではなく、どのようは経緯(苦労)を経て組織作りがなされてきたかについ
てもっと説明していただきたかったのですが、時間の都合もあってやむを得なか
ったのでしょう。帰宅して当日いただいたCSR報告書をじっくり読んでみると、
そのあたりも結構記述されていてよくわかりました。ありがとうございました。

                     (文責:黒沢 敏朗(摂南大学))

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平成19年度 第1回定例セミナー
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日時:平成19年10月6日(土) 14:00~17:00
場所:ダイキン情報システム株式会社
参加者:25名
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<講演Ⅰ> 輝いて生きる統合の人間力とメンタリング
     ~ 人の成長の支援と指導 ~


講演者:HAIセンター所長。教育・研修・健康コンサルタント
    経営技術コンサルタント協会 理事
    大阪経済大学 非常勤 講師
    小池 喜四雄 氏

(概要)
1980年代までの近代工業社会では、物財の豊かさこそが幸せの基準として信じら
れてきたが、80年代が始まってからはITを中心とする情報優位の社会が始まっ
ている。この激動の社会では、「人間の豊かさは物財ではなく、心の満足度の大
きさすなわち統合の人間力で決まる」と言われている。協調化・共進化が求めら
れる時代にあって、どのような統合の人間力の発揮が必要かということについて
考えてみたい。

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<講演Ⅱ> 24/7の問題と労働条件の改善
     ~ 疲労リスク管理による事故と経営コストの削減 ~


講演者: サーカディアン・テクノロジーズ・ジャパン 有限会社
     代表取締役
     森国 功 氏

(概要)
24/7(24 hour / 7 days)の世界は時間と距離を短縮して、わたし達の生活を便
利にしてくれた。ただ一つの問題は、24/7操業で働く人びとがひどく疲れている
ことである。人間の遺伝子と生物システムは昼間に働き、夜間に眠るように設計
されている。われわれの脳の内部には生物時計があり、それは24/7経済のために
設計されてはいないのである。解決は、24/7の仕事を禁止するか防ぐことではな
い。むしろ、解決は危険を少なくするためのツールや技術を開発して、人間のサ
ーカディアン生理学を応用することである。これらの問題と改善について述べる。
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   「学生会員による講演内容のまとめ」および「参加者の感想」
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<講演Ⅰ>

[講演内容のまとめ]-----------------------------------------------------
 1980年代までの近代工業社会では、物財の豊かさこそが幸せの基準として信じ られてきたが、80年代が始まってからはITを中心とする情報優位の社会が始まっ ている。この激動の社会では、「人間の豊かさは物財ではなく、心の満足度の大 きさすなわち統合の人間力で決まる」と言われている。このような社会を乗り越 えるには“自分がどうありたいか”という明確な目標と目的をもち、それに向かっ て知識や技術的スキルを身につけていくことこそが必要である。すなわち、自律 していける人間、変化に対応できる人間、他人に元気を与えられる人間、新たな 活路を生み出す人間が必要となる。そのためには、5つの人間力(知力・感力・ 行力・場力・活力)をベースに統合の人間力を考える“メンタリングの思想”が 重要となる。メンタリングは欧米で非常な発達・進展を見ており実績も挙がって いるが、日本でもいろいろな企業や組織でも導入事例が増え、実績ができつつあ る。それらの事例では、メンターとメンティとの関係は一方的ではなく、双方向 の問題として捉え、互いに向上し合っていくことが重要であるとしている。企業 でのジェネレーションギャップに基づくパラダイムギャップも身近なところから 徐々に問題解決していけば、やがては企業風土、企業文化も望ましい形に近づい ていくという。時代が大変革を遂げている際には、周辺を見回して、“いかに在 るべきか”との大局観に立ち熟慮して「輝ける統合の人間力」を発揮して活きて いくことが必要である。

(文責:植田好昭(大阪工業大学、修士2年))

[参加者の感想]---------------------------------------------------------
 技能や技術力はOJT で訓練できるが、場力の下で知力・感力・行力を活力で統 合する「人間力」は従来のOJT だけでは育成できない。この指摘は極めて重要だ と思われる。職場の上下関係を離れた「上司」や先輩などの「メンター」(人間 力の総合的な育て人)によるメンタリングシステムが有効であるとのお話は、大 学の人材育成の上でも非常に参考になった。メンティを指導することでメンター の活力も伸びていくのであろう。講演を通して初めてメンタリングの重要性が認 識できた。

(文責:長沢啓行(大阪府立大学))

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<講演Ⅱ>

[講演内容のまとめ]-----------------------------------------------------
 企業を運営していく中では、生産性、品質、安全性の向上が必要である。工場 やコンビニエンスストアなど24/7(24 hour / 7 days)操業では、設備や施設な どの投資コストは低下するものの、事故やエラーのリスクは増大し、管理されて いない過度な疲労によるコストが発生する。そのコストは、覚醒度の低下、認知 エラー、モラルの低下、健康・教育問題により引き起こされる。このような疲労 によるコストを見えるようにすることこそが経営の合理化に繋がる。そのために は人間のサーカディアン生理学を応用するため人間の体内時計のしくみと睡眠の メカニズムを分析することが重要となる。たとえば、某電機メーカーでのテレビ モニターの目視検査を取り上げてみる。不良品を良品と判定する検査ミスは深夜 と午後に多く発生することが実験によって示されている。作業能力が低下するこ とで品質が低下し、余計なコストを発生することになる。これまでは、生産性、 品質、安全性を維持するための方策として人間工学等を活用した労働条件の改善、 作業者の能力向上のための教育、訓練が実施されてきたが、24/7操業においては 生理学的要素を取り入れた方策が必要である。従業員の疲労と事故リスクを低減 するためには労使双方に有益な勤務スケジュールを確立することが求められてお り、そのためには生理学的法則を考慮したスケジュールを作成する必要がある。 そのことで、疲労リスク管理による事故と経営コストの削減を実現することが可 能となる。

(文責:植田好昭(大阪工業大学、修士2年))

[参加者の感想]---------------------------------------------------------
 交代勤務、長時間勤務など、不規則なスケジュールを強いられる労働者は、勤 務中の居眠り、注意力の低下、勤労意欲の低下など、生産性低下の要因を抱えて おり、職種によっては、生産性低下に留まらず、大きな事故につながりかねない リスクを抱えています。
 講演では、そうした労働者の疲労リスクを診断することにより、睡眠のとりか たやライフスタイルの見直しを行い、労働者にとって快適な環境を提供するため の試みが紹介されました。人間の体内時計の話から、具体的なスケジュール改善 方法まで、身近で興味深い話題が織り込まれており、セミナー参加者にとって、 わかりやすく、役に立つ講演であったと思います。

(文責:溝口泰弘(関西支部長))

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平成18年度 第2回定例セミナー
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日時:平成19年2月17日(土) 14:00~17:00
場所:ダイキン情報システム株式会社
参加者:25名
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<講演Ⅰ> マーケティング2.0で進化する顧客コミュニケーション
講演者:トランスコスモス株式会社 常務執行役員 沖野 公秀 氏
(会社URL: http://www.trans-cosmos.co.jp/)

(概要)
インターネットの普及によって消費者の行動は大きく変化した.それと共に,
お客様との接点を担う機能も進化を重ねてきた.事例を交えながら企業最前線
の取り組みを紹介したい.

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<講演Ⅱ> 人材マネジメント~バブル崩壊以降の推移
講演者:株式会社マングローブ 取締役 関西支社長 川口 雅裕 氏
(会社URL: http://www.manglobe.com/)

(概要)
マングローブ社は採用ビジネスそのものを行っている会社である.バブル崩壊
以降の人事制度の大変革を踏まえて,今,求められている採用人事の本質に迫る.
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平成18年度 第1回定例セミナー
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日時:平成18年10月7日(土) 14:00~17:00
場所:ダイキン情報システム株式会社
参加者:20名
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<講演Ⅰ> これからの中小企業とWebサイトのあり方について
講演者:株式会社シー・エヌ・エス Webコンサルタント 藤崎 俊之 氏
(会社URL: http://www.cns-inc.co.jp/)

(概要)
ホームページを通じて中小企業を元気にされているシー・エヌ・エス様のこれま
での取り組みと今後の展開について,「なぜSEO(Search Engine Optimization:
検索エンジン最適化)に着目したのか」,「Web2.0時代のSEO」,「Webサイト制作
業務の効率化」などを題材にご講演頂きます.あわせて,同社の実際のお客様の
声や実例を交えながら「成果の出るホームページ」とはどうあるべきかについて
もご解説頂きます.なお,株式会社シー・エヌ・エス様は,大阪中小企業顕彰事
業の第4回 "賞by繁盛" 大阪フロンティア賞において「創業奨励部門最優秀賞」
http://www.pref.osaka.jp/shokosomu/syoubai/vol.4.htmlを受賞されてお
られます.
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<講演Ⅱ> 「寄せ集めと知恵の経営」
-人材異業種から、機器は多種多彩(食品以外から)-

講演者:株式会社たにぐち 代表取締役社長 谷口 静雄 氏
(会社URL: http://www.taniguchi-net.com/)

(概要)
株式会社たにぐち様は,異業種の人材および技術を集約して利用することにより,
従来思いつくこともなかった「洋菓子用オーナメントの量産」を実現されるなど,
独自のビジネスを種々開拓・展開し,高い評価を得られています.今回は,同社
の独創的なビジネス戦略について,以下の題材を中心にご講演頂きます.
① 経営方針
② オーナメント以外の取り組み
③ ISO、5S、食の安全の取り組み
④ 営業少人数、カタログの取り組み
⑤ 企画会社、洋菓子アンテナショップ
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