JABEE委員会報告(2)[経営システム誌(Vol.11, N0.4)掲載の Web版]

「経営工学分野」技術者教育プログラムに関する動向と審査・認定の概要


岸田孝弥 下田祐紀夫

1 日本経営工学会のJABEEへの対応

 JABEE(日本技術者教育認定機構)の審査認定制度に対応するため、日本経営工学会は、 「経営工学教育および資格認定検討委員会」
(注1)を 平成11年10年24日に発足させ、次の3つのワーキンググループを組織した。
  1. 日本における経営工学関連の教育に関する調査のWG  
  2. 諸外国を含めた技術者教育および資格認定機構に関する調査のWG  
  3. 企業における技術者受け入れに関する調査のWG
それぞれのワーキンググル-プの調査研究成果を、 「経営工学教育および資格認定検討委員会報告書」(平成12年7月15日)としてまとめ理事会に報告した。

 報告書のうち、「経営工学および経営工学関連分野の分野別基準(日本経営工学会案ver.1.0)につて」は、 経営システム誌(Vol.10,No.4,2000年12月)に掲載し会員に報告した。

 一方、日本学術会議経営工学研究連絡会(注2) (幹事長高橋幸雄東京工業大 学教授)は、経営工学分野別基準(研連案)(平成12年3月27日)を作成し、JABEE に提出した。FMES(注3)の下部組織として JABEE参加検討委員会が平成12年4月 13日に組織され、平成13年4月27日に、FMES/JABEE委員会と名称変更され、委 員長に本学会の渡邊一衛JIMA前副会長が継続して選出された。経営工学分野は、 FMES/JABEE委員会を窓口としてJABEEに対応することが決まっている。

 なお、FMES/JABEE委員会の委員に、本学会からは、渡邊委員(FMES/JABEE委員長)と 岸田委員(JIMA理事)の両名が出席している。

2 経営工学関連分野の分野別要件

 平成12年12月16日のJABEE基準審査委員会で「経営工学関連の分野別基準」 (現在の名称は分野別要件に変更)が正式認定された。

 JABEE-経営工学関連分野-分野別要件V1.0
  この分野別要件は、経営工学関連分野の技術者教育プログラムに適用される。
 教育内容
  本プログラムの修了生は以下の能力・技術を身につけている必要がある。

 教員(教授、助教授、および講師) なお、分野別基準の補足説明については
JABEEのホームページ参照

3 JABEEの試行審査に向けての対応

3.1 JABEEシンポジウムの開催

経営工学分野で「JABEEの試行審査を受けるために準備すべきこと」を明らかにするため、 下記のシンポジウムを企画委員会と共に開催し、会場が満席になるほどの参加者があった。
 (1)テーマ:経営工学教育の新世紀―プロフェッショナル・エンジニアとIEr
 (2)講演
        1)新しい技術者資格制度と学会の役割            
            土屋定之文部科学省科学技術・学術政策局基盤政策課長
        2)企業における技術者教育認定の意味    
         四宮孝史(株)エヌエスソフト取締役社長
       3)JABEEの試行審査を受けて-受けるまでの準備と方策 
       康井義明東海大学工学部JABEE実施委員長(東海大学教授)
        4)経営工学分野別基準とその検討経緯
            下田祐紀夫JIMA経営工学教育および資格認定検討委員(群馬高専)
        5)JABEE審査と経営工学分野のこれからの課題
             岸田孝弥JIMA理事(企画・JABEE担当)(高崎経済大学)
 (3)日時 日本経営工学会平成13年度春季大会
     平成13年5月2日(水) 14:40~16:40
 (4)場所 法政大学 東京都小金井梶野町3-7-2                

3.2 JABEE審査員研修への派遣

JABEE主催の審査員研修に、日本経営工学会を通して参加した参加者名(あいうえお順)。
平成12年7月29日,30日:岸田孝弥(高崎経済大学)、渡辺一衛(成蹊大学)
平成13年7月28日,29日:堀江良典(日本大学)、吉本一穗(早稲田大学) 
平成13年8月25日,26日:飯島淳一(東京工業大学)、大崎紘一(岡山大学)、
           木嶋恭一(東京工業大学)、四宮孝史((株)ニコンデジタ
           ルテクノズ)、下田祐紀夫(群馬工業高専門学校)
平成13年10月7日,8日  齋藤むら子(早稲田大学)、平川保博(東京理科大学)、 
                    森雅夫(東京工業大学)、若山邦紘(法政大学)

3.3 平成13年度の試行審査(経営工学分野について)

平成13年度は次の大学で「経営工学教育プログラム」の試行審査が行われる。
(1)早稲田大学理工学部経営システム工学科
     試行審査日:平成13年12月21日(金)~23日(日)
(2)鳥取大学工学部社会開発システム工学科
     試行審査日:平成13年12月16日(日)~18日(月)
以上のように、FMESをJABEEへの窓口として、経営工学分野が正式にJABEEに承認され、試行審査が平成13年度から実施されことが決定された。

 「技術者教育の国際間の相互認証」を目標とし、国際的に通用する技術者を育成するための「教育の仕組み」を審査認定する制度は、経営工学分野でも着実に前進している。

4 JABEEの概要と審査の進め方

 試行審査に際し、実際の手続きと審査の進め方の概要を参考までに述べる。

4.1 JABEEの概要

 1999年11月19日に日本技術者教育認定機構(Japan Accreditation Board  for Engineering Education)が設立された。通称JABEEといわれるこの非政 府組織団体が技術系学協会に非常な衝撃を与えた。JABEEの目的は「統一的基 準に基づいて高等教育機関における技術者教育プログラムの認定を行い、その 国際的な同等性を確保するとともに、技術者教育の向上と国際的に通用する技 術者の育成を通じて、社会と産業の発展に寄与すること。」となっている。こ こで各学協会が一番気にしたのが、どのように教育機関に認定が行われるかで あった。

 平成12年度から認定のための審査の試行がJABEEにより土木学会、機械学会 等の関係高等教育機関に対して行われた。この試行の様子は、先に述べた平成 13年5月2日の日本経営工学会平成13年春季研究発表会でのシンポジウムで、 一部内容を紹介した。その後、JABEE経営工学分野を代表する経営工学関連学 会協議会(FMES)のJABEE委員会で検討を進め、その結果平成13年度に2つの大 学で試行することに決定した。1つは鳥取大学工学部社会開発システム工学科 で、平成13年12月16日~18日に実施することになった。二つ目は、早稲田大学 理工学部経営システム工学科で試行日時は平成13年12月21日(金)~23日(日)で ある。前述したように、JABEEによる経営工学分野での高等教育機関の審査・ 認定の準備は着々と進んでいる。

4.2 審査の進め方

 審査を受けようとする大学等はどのような手続きを踏めばよいのかを次に示す。 JABEEで決めた、審査の流れと所要日数を示すと図1のようになる。

審査の目安と所要時間の目安例(案)

日程 内容
4月 1日 認定希望高等教育機関からJABEEへの文書による審査申請
4月30日 JABEEは、適切な学協会に審査長および審査員の候補推薦を依頼し、任命
5月 5日 JABEEは、当該高等教育機関に審査・認定申請の受理、審査チーム員情報を通知
7月 1日 当該高等教育機関は自己点検書を当該学協会に送付
7月10日 審査チームによる自己点検書の審査
7月30日 審査チームは当該高等教育機関と実地審査の日程を協議・決定
(当該高等教育機関の承諾を得てオブザーバ-を加えることが出来る。)
9月15日    実地審査
9月30日 事実関係等に修正がある場合には、当該高等教育機関は 2週間以内に審査長に連絡
10月15日 審査長は実地審査実施後 4週間以内に、1次審査報告書を当該高等教育機関と当該学協会審査委員会およびJABEEに送付
11月15日 当該高等教育機関は、1次審査報告書の内容に異議がある場合には、4週間以内に審査長およびJABEEに通知。改善の指摘がなされた場合も4週間以内に改善計画を審査長およびJABEEに送付
12月15日 審査長は1次審査報告書に変更がある場合には、2次審査報告書を作成し、当該学協会の審査委員会およびJABEEに提出。変更がない場合には、その旨を両者に通知。
2月15日 当該学協会の審査委員会は、各教育プログラムに対する2次審査報告書を審議・調整し、最終審査報告書を作成してJABEEに提出
3月15日 JABEEの認定・運営委員会は、全教育プログラムに対する最終審査報告書を審議・調整した後、認定案をJABEEの認定委員会に提出
3月30日 JABEEの認定委員会は、上記の認定案を審議して、認定の合否を最終決定

4.3 審査チームの役割とすべきこと

 審査を進めるに当っては、審査チームが構成される。審査チームは、審査長1名及び審査員2~4名で構成される。審査チームの中に、原則として実務経験者を含むものとする。また、必要に応じてオブザーバーを加えることができる。審査長については、原則として、審査員としての経験が一回以上あることが要求される。

 審査員には次のような倫理規定がある。

  1. 守秘義務:審査に係わる資料および情報について日本技術者教育認定機構(JABEE)および学協会の常置の審査関係委員会以外の第3者に公開、口外しない。
  2. 文書、情報の取り扱いと目的外使用禁止:自己点検書および審査に関連した文書及び情報は審査関係者が審査目的にのみに使用すること。   
  3. 審査員の委託と利害関係者の排除:現役教職員、元教職員、名誉教授、非常勤講師、卒業生など認定対象プログラムと利害関係のある者は審査員になれない。(以下略)

 次に審査員の具体的な仕事の内容について示す。

 実地調査は非常に忙しいので、自己点検書の審査は実地調査以前にすませておくことが重要である。当日の質問事項は落ちがないように事前に書き留めておくと良い。

 卒業生が学習・教育目標を達成していること、および基準のすべてを満 たしているという証拠が明確でない場合には、それを実地調査以前に調査を受 ける機関に伝えておくことも必要となる場合がある。審査員は審査にあたって、 審査員個人の教育論を審査に持ち込まないこと。審査員自身あるいは関連機関 の水準で判断せず、認定基準に基づいて審査することが要求されている。審査 において必要なインタビューは、審査員自身の必要性に基づいて計画し、イン タビュー対象者が偏らないようにすることが大切である。尚、実地訪問以前に はインタビューしないことがルール化されている。審査チーム内で認定水準が 異なる場合には、十分討議して、審査チームとしての水準を統一する必要があ る。審査を受ける大学等と審査チームとの認定水準に関する考え方が異なる場 合は、審査チームとして十分意見の交換を図り、なるべく根拠を明確にするこ とが必要である。そのためには、メモを取り、報告書に記載するなどの措置も 必要であろう。さらに、写真等の状況証拠が必要と思われれば、写真を取って おくとよい。

4.4 実地審査を受ける側の準備について

実際に実地審査を受けるとなると受ける側の準備も大変なことは言うまでもない。どのようなことをすればよいのかを、次に示す。
  1. 実地審査日程の調整
  2. ホテル・食事等の手配:常識の範囲で行う。接待をするなどは必要ない。
  3. 会議室・器材(パソコン、プリンタ、OHP、プロジェクタ)などの手配と確認をする。特に審査員が個人のPCを持ち込む場合には、プリンタ接続などについて注意が必要である。
  4. 会議室については、鍵のかかる部屋であること。電話はもちろん、コピー機等のOA機器が用意されている必要がある。
  5. 審査チーム内の事前打合わせとして、具体的スケジュール、審査を受ける学科のプログラム点検書、インタビュー質問項目、視察点検場所の決定などが必要となる。
なお、審査を受ける大学側で、プログラムの主要科目の答案用紙が準備されていないなどは、避けたいものである。

5 JABEE審査のセミナーの計画

 日本経営工学会では企画委員会とJABEE委員会共同で2002年の春季大会時 に、平成13年度の試行校(早稲田大学と鳥取大学)での試行結果を受けて、1日 を掛けて、JABEE審査についてのセミナーを開催するプランを計画中であ る。詳細が決定しだい、経営システム誌やホームページでお知らせするので、 気にかけて戴ければ幸いである。
(注1)経営工学教育および資格認定検討委員会:委員長 渡邊一衛(成蹊大学) 
   (1)日本における経営工学関連の教育に関する調査のWG
   グル-プ長:関庸一(群馬大学)、委員:平川保博(東京理科大学),大崎紘一
   (岡山大学),下田祐紀夫(群馬工業高等専門学校),渡邊一衛(成蹊大学)
  (2)諸外国を含めた技術者教育および資格認定機構に関する調査のWG
    グループ長:松井正之(電気通信大学)、委員:玄光男(足利工業大学),
   辻村泰寛(足利工業大学),大滝厚(明治大学),坪根斉(東京都立科学技術大学)
  (3)企業における技術者受け入れに関する調査のWG
      グループ長:久米靖文(近畿大学),委員:豊島文雄(ソニー株式会社),
   伊藤謙治(東京工業大学),井上一郎(京都産業大学),俵信彦(武蔵工業大学) 
(注2)日本学術会議経営工学研究連絡会(略称:研連)
   経営工学の分野別基準案(研連案)を作成したときの研連の構成は、次の7
   学会であった。日本経営工学会、日本オペレーションズ・リサーチ学会、日
   本品質管理学会、日本開発工学会、日本信頼性学会、日本設備管理学会、
   研究・技術計画学会。
   現在は、経営情報学会とプロジェクトマネジメント学会が加入し、計9学
   会から構成されている。
(注3)FMESについて
      当初は、経営工学関連学会協議会(日本経営工学会、日本オペレーショ
      ンズ・リサーチ学会、日本品質管理学会の関係者が集まって日本学術会
   議の中に経営工学研究連絡委員会を認定してもらうべく組織した協議会)を
   意味していたが、現在は、FMESを日本学術会議経営工学研究連絡会の意味
   で使用している場合が多いようである。