JABEE委員会報告(1) [経営システム誌(Vol.10, N0.4)掲載の Web版]

経営工学及び経営工学関連分野 分野別基準 (日本経営工学会案 ver1.0)について

2000年6月7日
経営工学教育および資格認定検討委員会
日本における経営工学関連の教育に関する調査WG

1、はじめに

 
日本経営工学会では、 経営工学教育および資格認定検討委員会を平成11年 10月に設置して、経営工学分野に関する技術者認定のあり方について、検討を 進めて来ている。その中で、"日本における経営工学関連の教育に関する調査 WG"は経営工学分野分野別認定基準について素案を作成し、これに基づき、経 営工学教育および資格認定検討委員会で日本経営工学会案(ver1.0)が平成12年 5月、作成された。以下で、この案について説明する。

 従来、国内で検討されてきている経営工学関連の分野別基準としては、日本 品質管理学会が1999年2月にJABEE設立準備室に提出した、 「経営工学及び経営工学関連分野専門基準(案)」[1] (以下ではJSQC案とよぶ)、および、経営工学研究連絡委員会が 2000年3月に報告書を作成して、そこで提案した 「「経営工学分野」エンジニア教育プログラム認定基準案」[2](以下では研連案とよぶ)の二つがある。

 また、海外では、ABETが従来の基準を改定したEC2000があり、今年から本格 的に実施に移されようとしてしている。このABETの分野別基準の中での経営工 学に関連した基準としては、IIEが作成したEC2000 ABET Criteria:

の二つがあるが、日本における経営工学分野としては、前者がより近いと考え られ、日本経営工学会案では、主に後者を検討対象としている。

 経営工学教育および資格認定検討委員会では、以上の各案を勘案して、 「分野別基準(案) 経営工学及び経営工学関連分野 ver. 1.0」(以下、JIMA案とよぶ)を提案する。

 以下では、JIMA案の考え方を示した上で、JIMA案と上記のJSQC案、研連案、 EC2000-IE の三つ(付録として添付、項目には区別のため通番を付して以下で 用いる) を比較対象として相互の関連について検討を加えた上で、東京工業大 学 経営システム工学科、早稲田大学経営システム工学科、青山学院大学経営 工学科、成蹊大学経営工学科 の講義科目リストを具体例として、経営工学分 野のカリキュラム領域について検討を加えた結果を示す。

2、JIMA案の考え方

 JIMA案のカリキュラムの項目では、将来、国際基準との整合性が課題になる ことを勘案してEC2000-IEを基本とし、JSQC案、研連案、および、JISの新規格 の経営工学の項を参考にして、案を作成している。EC2000-IE を基本としたた め、個別の設置科目がどの項目に対応するかを分類できることを想定しない基 準となっている (特に項目(1),(2))。設置される各科目で、これらの能力が総 合的に養われることを期待している。また、EC2000-IEで強調されているシス テム統合を基本キーワードとして、卒業生に求められる能力を、システム統合 が必要とされる局面(Needs)と、システム統合を実施する上で必要とされる方 法論(Seeds)の二側面から規定するとともに、経営工学分野の卒業生が、他の 工学領域などと協力して活動することを要求されることが多いことを考え、研 連案から、関連分野に関連する規定を採用追加している。以下、各項目につい て解説する。

  項目(1) [J1] EC2000-IEの Curriculum の規定の前半に準拠して、卒業生 の能力をシステム化のNeeds面から規定している。新しいJIS Z 8141 案の「イ ンダストリアル・エンジニアリング(Industrial Engineering)、経営工学」の 項を参照し、金( 原価、資金、価値 )も対象とすること、環境への配慮の二点 を追加している。研連案(K1)、JSQC案(Q1),(Q2)とほぼ対応する。

  項目(2) [J2] 上述 EC2000-IEの規定の後半に準拠して、数理的解析能力、 計算機システムの利用能力、固有技術領域における実験的実践を適切に用いて、 システムの統合を実施するための方法論を身に付けていなければならないこと をSeeds面から規定している。EC2000-IEでは、教育プログラムへの規定となっ ていたが、卒業生のもつべき能力への規定として表現し直している。研連案 (K2),(K3)、JSQC案(Q3),(Q4),(Q5),(Q6)とほぼ対応する。

  項目(3) [J3] EC2000-IEにはない研連案の(K4)を追加している。経営工学 分野の教育プログラムでは、システムの統合能力を養うことを目標とするが、 対象となるシステムをある程度絞り込み、対象分野の知識も教育しようとする 学科がかなりある。そのような学科も対象としやすいように、この項目を追加 している。ただし、このような目的でこの項目を入れる事によって、関連分野 の内容に引きずられて、経営工学分野としての内容規定が曖昧になる危険もあ ると思われる。審査の実施に当たっては、教育内容の分野別配分量などに関し て、より具体化した規定を考える必要があると思われる。なお、この項目で、 文化系の経済学/経営学などの科目についても包含していると考える。研連案 (K4)、JSQC案(Q7)とほぼ対応する。

 教員については、JSQC案と同じものを採用している。しかし、大学設置審議 会の基準を借りる形の規定となっているため、今後、分野の整備が進むととも に独自の基準の作成を検討することも考えられる。

 以上のような整理に基づき、JIMA案の位置付けをまとめると、以下のようになる。

(注1)
経営工学分野の領域を学習する上では、数学系、情報系、理学系、工学系、人文系の 基礎知識/能力が必要となる場合があると考えられる。これらは、設置カリキュラムの 目標に応じて、暗黙の前提として要求される。その多くは、共通基準2(d)で 指定される内容としても要求されるので、上記の分類では取り上げていない。 ただし、JIMA案では、(J3)として、システム統合の対象領域に関する基礎的理 解と内容を限定して、関連分野に関する基礎的理解を要求している。

  • 共通基準2(d): 数学、自然科学および技術(情報技術(IT)を含む)に関する 基礎知識とそれらを応用できる能力
(注2)
(J3)で挙げる統合システム化の対象領域としては、工学領域、経済経営領域、 公共サービス領域などの多くの領域が考えられる。社会環境の変化とともに、 経営工学の対象領域も拡大進展すると考えられる。このため、本基準では 新しい領域への意欲的なカリキュラムを積極的に認めてゆくためかなりの自由度を 持たせてある。たとえば、 対象領域の性格付けに対応して、(注1)で要求した基礎知識/能力の範囲はカリキュラム ごとに独自に設計されるべきものと考える。
      表1, 経営工学関連分野別基準案比較表
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  JIMA案       研連案       JSQC案             EC2000-IE   
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  (J1)         (K1)         (Q1),(Q2) 	       (I1)	
  (J2)         (K2)         (Q3),(Q4),(Q5)     (I2)	
  (J2)         (K3)         (Q6)	       (I2)	
  (J3)         (K4)         (Q7)	       なし
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3、経営工学関連領域

 経営工学 分野別基準案が想定する経営工学関連分野の領域として、そのキーワードを以下に列挙する。以下の主要分野に対して、バランスのとれたカリキュ ラム構成が要求されものと考える。ただし、この列挙は科目名を具体的に指定 するものではなく、卒業生の持つべき知識/能力をしめすキーワードとしての 位置付けで検討されている。実際のカリキュラムでは、これらのキーワードに 関連した知識、システム統合能力のうちの多くが、いずれかの設置科目で養わ れるよう配慮されていれば良いものと考える。なお、この列挙では、大項目、 小項目の分類を示し、追加キーワードを与えている。列挙順序は重要度とは無 関係である。

[J1]による分類(統合システム化の対象による分類)

 システム統合の総論(マネジメント手法、IE など)は分類不能であるが、 その他の対象領域から分類される科目/分野の例を、以下に列挙する。
 人	: 人的資源管理 : 組織工学 プロジェクト管理、組織革新(TQM, JIT,など)
          作業管理 : 作業測定
	  人間工学 : マンマシンインターフェース、産業心理学、安全工学
 もの	: 生産管理 : 生産システム、生産計画、生産統制、資材管理
	  品質管理 : 品質保証、設備管理、プロセス管理
	  施設管理 : 施設計画、工場計画、ロジスティック
	  製品設計 : 製品開発工学、新製品開発、VE、研究・技術管理、設計論
 金	: 原価管理 : 経済性工学、コストマネジメント
	  管理会計 : 財務資金管理、財務会計、経営分析、金融工学、理財工学
 情報	: 経営情報管理 : 経営情報システム、情報管理
	  システム分析/設計 : 事務システム設計、意思決定支援システム設計
 環境	: 環境工学: エネルギー管理、環境会計
	  企業環境: 経営戦略論、生産戦略論、企業と法的環境、特許・知的所有権
	  マーケティング: マーケティングリサーチ、マーケティング戦略

[J2]による分類(統合システム化の方法論による分類)

 主に、方法論を中心とした科目名/分野の例を以下に列挙する。
 数理解析: オペレーションズリサーチ : 最適化手法/数理計画法、
	    意思決定理論、シミュレーション、
	   数理モデル化、在庫管理、スケジューリング、待ち行列理論
	   確率・統計: 推検定論、実験計画法、信頼性工学、多変量解析、
	   データマイニング
 計算機	 : 情報科学 : プログラミング、データベース、データモデル、ソフトウェア工学、
	   人工知能、知識処理プログラミング、情報通信技術(IT)、ネットワーク構築
 実験	 : 固有技術領域での実験/演習、
	   問題解決法、創造性手法、ベンチマーキング(事例研究)
 各方法論を学習する上での基礎科目としては、たとえば、以下で挙げられる ような分野の知識が必要となる場合があると考えられる。これらは、設置カリ キュラムの目的に応じて、暗黙の前提として要求される。また、共通基準2(d) で指定されている内容としても、要求されるので、上記の分類では取り上げて いない。
 数学系 : 線形代数、解析学、関数論、微分方程式、ベクトル解析、関数解析
	   離散数学、情報代数、グラフ理論、計算量理論、数値解析
 情報系 : 計算機アーキテクチャ、オペレーティングシステム、ソフトウェア開発環境
 理学系 : 物理学、化学、熱力学
 工学系 : 図学/製図、CAD/CAM、制御工学、自動制御、システム工学、ロボティクス
	  計測工学、材料工学、生産加工技術、物流運搬技術、
	   生産技術(プラント/生産設備)、生産プロセス工学
 人文系 : 心理学、人間関係論

[J3]による分類(統合システム化の対象領域による分類)

 関連科目を関連学門分野から分類したものを以下に示す。なお、社会環境の 変化とともに、経営工学の対象領域も拡大進展すると考えられる。新しい領域 への意欲的なカリキュラムを積極的に認めてゆく配慮が望ましいと考えられる。
 工学領域 : 情報工学、電気電子工学、機械工学、化学工学
 経済経営領域 : 経営学、工業概論、経済学(マクロ/ミクロ/...)
 公共サービス領域 : 建設工学、都市工学、行政学、看護福祉学

参考文献

付録

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付録1.  経営工学分野関連学科リスト
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付録2.  経営工学分野 分野別基準(JIMA案 ver1.0)
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付録3.  「経営工学及び経営工学関連分野専門基準(案)」(JSQC案)
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付録4.  「「経営工学分野」エンジニア教育プログラム認定基準案」(研連案)
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付録5.  EC2000-IE (和訳つき)
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The New EC2000 IEE 新基準 INDUSTRIAL ENGINEERING 

  The new Engineering Criteria 2000 was approved by the ABET Board of
Directors on November 1st, 1997. Below are the program criteria.

Program Criteria for INDUSTRIAL and similarly name Engineering Programs
工業および関連したエンジニア教育プログラム認定基準

  These program criteria apply to engineering programs using
industrial or similar modifiers in their titles.

  1. Curriculum

  Graduates must have demonstrated the ability to design, develop,
implement and improve integrated systems that include people,
materials, information, equipment and energy.
  The program must include in-depth instruction to accomplish the
integration of systems using appropriate analytical, computational and
experimental practices.

  (1) 卒業生は人、もの、情報、設備、エネルギーを含む統合システムを設計、
開発、実施、改善する能力を実証できなければならない。	(I1)
  (2) 教育プログラムは適切な解析的、計算機的、実験的実践を用いたシステ
ムの統合を実施するための深い教授を含まなければならない。(I2)

  2. Faculty

  Evidence must be provided that the program faculty understand
professional practice and maintain currency in their respective
professional areas. Program faculty must have responsibility and
sufficient authority to define, revise, implement, and achieve program
objectives.

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